神経症(不安症)の治療法/薬物療法
神経症や不安症を取り巻く家族や周囲の人々はどのように対応すればよいのでしょうか。その症状やタイプは様々あり、多種多様です。ここでは、神経症や不安症の人に対する一般的な対処法を紹介します。
1.薬物療法について
最近では、神経症(不安症)の治療に対して広く薬物が用いられ、一定の有効性が確かめられています。神経症(不安症)に使用される主な薬物とは、抗不安薬と抗うつ薬の2種類があります。
・抗不安薬
抗不安薬は、別名緩和精神安定剤(マイナートランキライザー)と呼ばれ、一般的に安定剤と言われるものです。その作用は、その名のとおり不安を軽減する薬です。その他、鎮静作用、眠気作用、筋肉の緊張の弛緩作用ななど、いくつかの働きがあります。
・抗うつ薬
元々うつ病に対する治療薬ですが、神経症(不安症)に対してもその効果が認められています。抗うつ薬には、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、SSRI、SNRIと言われる4つの種類があり、それぞれに特徴や違い、副作用や問題点があります。
最近よく使用されるSSRIは、選択的にセロトニンに働く作用がありしかも副作用が少ないと言われ、神経症(不安症)にも効果があると言われています。
2.薬物療法の問題点
近年はSSRIが登場した事で、神経症(不安症)の治療に多くの薬物が使用されるようになりました。そのため、神経症(不安症)の治療が、地元のクリニックや心療内科で広く受けられるようになりました。しかし反面、あまりにも神経症(不安症)の症状を薬物で除去しようという風潮が高まり、様々な問題が生じています。
〈症状により、50%程度しか効果がない場合も〉
薬物療法では、パニック症のように効果の高いものもありますが、強迫症や社交不安のように50%程度しか効果がないものもあります。
またうつ病等に比べてスッキリ治ることは少なく、症状の緩和はあっても多少、症状が残ることが少なくありません。
〈薬をやめると再発する場合も〉
薬また依存性など、薬を中止すると症状が再発することもあり、服薬を中止する事が困難になる場合があります。多くの医師は薬によって症状を除去しようとしますが、これがかえって薬の量を増やし、次々と新しい種類に変えることにもなりかねません。
3.薬物療法への接し方
神経症(不安症)者には、薬に対する潜在的な不安があります。例えば、副作用や薬に対する依存性(自分でコントロールできなくなる恐れ)などです。
また不安が原因で病院を受診しているため、医師から受動的に処方された薬である程度、不安感や無力感は改善されますが、受け身の立場であるため、薬をやめるときに、あらためて潜在的な無力感が表に出てきます。
したがって薬を使用する場合、「不安をなくすこと」「症状をなくすこと」を最終の目標にするのではなく、患者さんは、「不安を乗り越えて生活を立て直していくための補助手段として薬を位置づける」ことが大切です。ここに、患者さんの本来の根本的な回復力を発揮させる鍵があります。
以下に、症例を踏まえたイラスト入りの解説もありますので、興味のある方は是非、参考にして下さい。
※参考文献
「神経症を治す」「気軽に行こう精神科」「よくわかる森田療法 心の自然治癒力を高める」
「森田療法で治す「不安症・強迫症」」「こころのりんしょう vol25-no.3/不安障害」
中村敬著、編集
「森田療法がよくわかる本」舘野歩著
「うつのかたへの対応Q&A」生活の発見会
「最新図解やさしくわかる精神医学」 上島国利著
「森田療法で読む うつ その理解と治し方」北西憲二、中村敬著
神経症(不安症)の治療法/精神療法
精神療法にはいろいろな種類があります。 ここでは大きく「森田療法」と「認知行動療法」及び「その他の精神療法」に分けて解説します。
1.森田療法
森田療法とは、1919年に我が国の精神科医、森田正馬によって独自に創始された神経症に対する精神療法です。
森田療法は、もともと神経質タイプの神経症によく適合するといわれてきました。具体的には、対人恐怖や広場恐怖などの恐怖症、強迫神経症、不安神経症(パニック障害、全般性不安障害)、心気症などが主たる治療の対象であり、これまでに高い治療効果をあげてきています。
その後、森田療法は、神経症のみならず、慢性化したうつ病やガン患者のメンタルヘルスケアの向上など、幅広い分野で応用されています。
森田療法の基本的な観点は、神経症者の人々の根底にある「不安」に対して、それを異常な心理現象ととらえない事です。むしろ、より良くいきたい(=生の欲望)という人間本来の欲望が強ければ強いほど、その裏返しとして死の恐怖に由来する、様々な不安もまた強く自覚される。これが人間心理の両面であり、自然な心であると考えたのです。故に、自らの不安や恐怖だけを取り除こうとしようとするあまり、かえってそれらの感情にとらわれ、不安や恐怖が一層強くなるというメカニズムであると理解します。
すなわち森田療法では、神経症の発症原因を、神経質な性格を基盤に、特有の心理的メカニズムで発症すると考えたのです。その心理的メカニズムとは、精神交互作用であり、思想の矛盾と呼ばれる不可能を可能にしようとする、心の葛藤であると説明したのです。
このような背景のある神経症の治療法とは、「あるがまま」と呼ばれる態度であり、不安や症状を排除しようとする努力はやめて、そのままにしておく態度を養う事です。そのために、不安は不安のままに、今必要な事(なすべきこと)から行動し、建設的に生きるという事を教え、実践させる治療方法です。治療方法には軽度の場合には、通院治療で、重度の場合には入院療法が適用されます。
2.認知行動療法
行動療法は学習理論という心理学の流れに沿った治療法で、主に不安神経症や強迫神経症、恐怖症などに適用される治療法です。
行動療法では、例えば不安は「苦痛に対する反応」として位置づけられます。つまり、電車に乗った時に不安に襲われた電車恐怖症なら、電車に乗る事自体が恐怖の対象となり、そのような行動が恐怖となり、ついには電車に乗れない状態が持続することになります。
このような恐怖と回避反応の学習が神経症の元にあると仮定して治療を行うのが、行動療法です。その手段としては、系統的脱感作法と暴露療法が代表的なものです。例えば系統的脱感作法とは、筋肉をリラックスした状態で、先の対象となる状況を段階的にリストアップし、一番刺激の弱い順から思い浮かべ、筋肉の緊張と弛緩を繰り返し、十分な緩和状態が得られた段階で、一歩ずつ刺激の強い状況へシフトする事を繰り返し訓練する治療方法です。
また最近よく使用される暴露療法は、やはり不安階層表を作り、刺激の弱い不安状況に直面させ、徐々にステップアップしながら不安状況に慣れさせていきます。その際に長時間不安に直面させ、なおかつその状況を回避できない妨害法を併用する等です。例えば不潔恐怖の患者に、ドアノブをじかににぎらせ、その後手を洗うのを我慢させる等の訓練(=反応妨害)です。
一方、認知療法は米国のA・Tベックらによって創始され、元来、うつ病の治療方法でした。うつ病患者の認知、つまりものの見方や考え方の歪みに着目して、それを現実のものに修正することによって、うつ病そのものを治療しようとしたのです。しかし現代では、認知、感情、行動が悪循環をなすというモデルに修正され、実際の治療方法としては、行動療法的な方法も取り入れられ、認知療法と行動療法は、強調点に違いはあるものの、兄弟のように発展し、認知行動療法というように総称されるようになっています。